No.115 6枚、翻弄されて。
2009/03/23 | タグ:Jazzin' park PSYCHOGEM SPECIAL OTHERS YOU KOBAYASHI ハンキー・パンキー 安藤裕子
窓際で流れ行く雲の数をひとつふたつと数えていたら、赤ら顔の編集長に肩をたたかれ、解散から一転、今週から単機で筆を取ることになりました。はい。編集長、オトナの事情ってヤツよね。分かります。とはいえ、大きなうねりのなかで翻弄気分を味わってるのも事実。今回の6枚は、そんな気分にそっと寄り添ってくれました。
■ポップスの魔法を信じている2枚
1. ハンキー・パンキー『In touch with Hanky Panky』(4月1日発売)ツイスト・ビートの“SUPER SONIC BOY”に続いて、フォーク・ロック・クラシックのたたずまいを持った“FOR THE STARS”。このハンキー・パンキーってグループは妙に老成してるなと思ったのも一瞬のこと。彼らの正体が、90年代に一世を風靡したL⇔Rの黒沢兄弟による変名ユニットと聴いて納得いたしました(つかヴォーカルはマンマですな)。おそらく自身の嗜好に逆らわず作られたのでしょう。トミー・ジェイムズやラヴィン・スプーンフル、そして“上を向いて歩こう”の英詞などカバー曲に顕著なよう、アルバム全体が60'sアメリカン・ロックへのオマージュになっています。黒沢兄弟=パンダの兄弟だとか、妙に込み入った設定があるのですが、それはひとまず脇に置いて、大人のポップ・センスを堪能しましょう。
2. 安藤裕子『THE BEST '03-'09』(4月15日発売)過小評価されてる。誰がって安藤裕子のことですよ! いや、評価されていますが、6年の活動をコンパイルした『THE BEST '03-'09』を聴いて、改めて過小評価の思いを強くした次第です。ナーバスでないフィオナ・アップルとでもいえばよいのでしょうか。時にドリーミー。時にエモーショナル、憂いはあるものの影はないヴォーカル。それを裏支えする手抜かりないアレンジの効いた楽曲の数々。2枚組全29曲(※)が、クオリティ、クオンティともに、安藤裕子という作り手がゼロ年代において突出した存在だったことを証明しています。聴くたびに発見のある安藤作品ですが、鍵盤のトーンの硬軟と呼応するようなヴォーカリゼーションが、本作の発見でした(※本作は2形態のリリース。2CD盤は全29曲収録。全シングル曲PVを収録した1CD+DVD盤もリリースされます)。
■別の入り口から似たような出口にたどり着いた2枚
3. PSYCHOGEM『NU BALANCE』(4月8日発売)およそ20年に渡ってDJとして活動し、〈SEEDS AND GROUND〉や〈CRUE-L〉作品にもその名を連ねてきたDJ HIROAKIが、PSYCHOGEM名義でリリースする初のフル・アルバム。いやぁ遅れてきた新人は伊達じゃありません。シンセの重なりをひとつとっても、実に丁寧な仕事。丹念にスウィート・スポット探したであろう事がうかがえます。勢い一発でない分信用できるタイプ。すでに各所で話題のcro-magonをフィーチャーしたスペイシー・ディスコ・ジャム“Runnin' Away”や808ステイト“Pacific”ではシンセの音色こそ違えど、バンド形態でかなりオーセンティックにカヴァーするなど、生音へのめばくせもバッチリ。また随所にエキゾの感覚もあり、〈SEEDS AND GROUND〉あたりの音がお好きな人には、特にオススメしたい1作です。
4. SPECIAL OTHERS『PB』(4月1日発売)フェスティヴァルのメインから路上まで。日本のジャム・バンドの代名詞になったSPECIAL OTHERS、3枚目のフル・アルバム『PB』。本来、ジャム・バンドというのは演奏形態であって、サウンドのベクトルを指し示すものではないのですが、どのジャンルにも借りのない彼らのアンサンブルを聴いていると、その立ち姿を言葉にするほかないも事実。つんのめるよな疾走感と瑞々しさ。そしてウォーミーな音の粒。本作もアッという驚きはないものの、周囲がスペアザに求める水準は悠々クリアしております。もしやこれこそ本物のエヴァーグリーンなのでは。
■編集力が試されるカヴァー作2枚
5. Jazzin' park『sakura flavor』(3月25日発売)カヴァー作品の粗製濫造で、いつしか逆にハードルが上がり、単なるカヴァーはもはや見向きもされない昨今。カヴァー作品も明確なコンセプトが必要なのでしょう。本作『sakura flavor』は、春先にチャートに乱立する〈さくら〉楽曲を、気鋭のプロデューサー・チームjazzin' parkがハウス・アレンジして……と、ここまで書いて正直ギリギリの代物ではあるのですが、paris matchのミズノマリ、ジルデコのchihiRoをボーカリストに迎えるなど、かなり力が入ってます。その結果、本作が一定の水準はクリアしているのも確か。大御所・井手麻理子はさすがの一言。ただし、メンバー栗原とゲストのRyoheiが披露したトランスジェンダーなヴォーカルが、本作一番の面白みである事を思うと、やはりカヴァー・アルバムの難しさを痛感せざる得ません。
6. V.A.『YOU KOBAYASHI presents CHOPIN HOUR』(4月8日発売)舌の根も乾かぬうちにまたもカヴァーであります。〈さくら〉の次はなんと〈ショパン〉。そう皆さんご存知19世紀のピアニストです。本作の旗振りをしているのは、アンダーグラウンド・ダンス・シーンで存在感を放つレーベル〈SWC〉看板DJ、YOU KOBAYASHI。彼の鶴の一声で集まったアーティストたちによるテック~ハウス・カヴァー曲のコンピレーションが、この『YOU KOBAYASHI presents CHOPIN HOUR』です。コンピだけあって、ショパンの超有名曲を各アーティストが料理しているのですが、これがなんとも興味深い仕上がり。CHERRYBOY FUNCTIONのテクノ、本誌連載でもおなじみやけのはらによるエディット、LATIN QUARTER&脳のストイシズム。各プロデューサーの嗜好が〈ショパン〉という制限のなかで、存分にハネ回っているのです。個人的には徐々に高揚していくDORIAN“マズルカ第13番”が好み。曲によっては肝心要のショパンが置き去りにされてる気がしなくもないのですが、カヴァーといえど振り切れた方が面白いという好例といえるのではないでしょうか。
「別に解任じゃない。OOPS!内の人事異動だよ。」えぇ編集長。皆まで仰らなくても承知しております、はい。またしばらく露払いさせていただく所存です。ええよろこんで。みなさんもどうぞよろしくお願いします。
●今回紹介したディスクはこちら↓で購入することが可能です





























