No.147 鍋を囲みつつ聴きたい6枚
2009/11/24 | タグ:AYUSE KOZUE L.E.D. STICKY from SCARS Underworld vs The Misterons □□□ クチロロ 曽我部恵一
ちょっと前に「今年は暖冬になる」というウワサを聞いたような気がしたんですけど、あれはきっと空耳だったのでしょう、連日めちゃくちゃ冷え込みますね。が、寒さが身にしみればしみるほど毎晩のあったかいごはんのありがたみも増すわけで、ことにホカホカの鍋をのんべんだらりと食す幸せは、ここ日本のこの季節でしか絶対に味わえないものですよね。自分はもうすでに週3ぐらいのペースで夜な夜な一人鍋をつっついております。そんなわけで、今週はまったり鍋タイムをより充実させてくれそうな6枚を。
■スキヤキを超える日本の新スタンダードな2枚
1. □□□『everyday is a symphony』(12月2日発売)今週の1発目はこちら、いとうせいこうが加入した□□□(クチロロ)の最新アルバム『everyday is a symphony』。タイトルの示す通り、フィールドレコーディングによって切り取った日本の〈日常〉をミックスし、当たり前の日々をポップな〈シンフォニー〉として再発見しようとするコンセプチュアルな作品です。歌とラップが入り乱れる奔放な作風は、せいこう氏の加入によってさらに可動域が広がった印象。目玉となるサンプリング・ネタも含めて、ものすごく緻密に仕組まれた随所のフックに舌を巻くばかりです。もちろんリリックも全曲すばらしく、なかでもせいこう氏が自伝的に日本のヒップホップ黎明期の様子を刻み込んだ1曲“ヒップホップの初期衝動”では、その歴史の重さに胸が震えます。何気ない男女のメールのやりとりを再現した“Re: Re: Re:”(坂本龍一が出演するSoftBankのCMソングのフル・ヴァージョン)でも、デートの誘いをひらりひらりとかわされる野郎のむなしさが見事に歌われており、男性リスナー諸氏は思わず笑いつつ(そしてちょっと涙しつつ)膝を打ってしまうこと請け合い。老若男女を問わず、現代日本を生きるすべての人々に聴いてほしい一大ポップ絵巻でした。
2. AYUSE KOZUE『Simply Good』(発売中)続きまして、歌もダンスもプログラミングもすべて自分でこなしてしまうアンファンテリブルな歌姫、AYUSE KOZUEのセカンド・アルバムをご紹介。とっても初聴きの良いスウィートなサウンドなのに、現在のシーンにあふれるどのダンス・ミュージックとも似ているようで似ていない。この絶妙な線の引き方が、特定の枠にも安易におさまろうとしない彼女の徹底したスタンスを裏打ちしていると思います。シングルとしてリリースされていた“こよいキミに恋をして”と“ヤミツキ”の2曲で参加しているRIP SLYMEのDJ FUMIYAのほか、前作に引き続いての参加となるクラムボンのmitoや、アルバムの大部分で共同プロデュースを手がけるGiorgio Cancemiなど、豪華なゲスト陣も魅力的。アルバム後半のハイライトとなる“One”では、彼女を見出したテイ・トウワがプロデュースを、そして坂本龍一がピアノのアレンジを担当しており、世代を超えたコラボレーションが実現。すでに貫禄すら感じさせる堂々とした1枚です。
■湯豆腐みたいに潔白な2枚
3. 曽我部恵一『Sings』(12月4日発売)曽我部恵一が一部ライヴ会場で限定販売していたカヴァー集が遂に一般発売。トラッシュキャン・シナトラズやピクシーズの“Here Comes Your Man”といったギターポップ・ナンバーも、オジー・オズボーン、ストゥージズ、ミスフィッツといったヘヴィなバンドの有名曲も、さらにジャックスや大瀧詠一による日本語ロックのマスターピースも、すべて曽我部氏がギター1本でアコースティックに歌いあげます。ひねった選曲もアレンジも皆無で、ヴェルヴェッツの“Sunday Morinig”であろうと、マドンナの“Like A Virgin”であろうと、向き合い方は愚直なまでにストレート。それ故に、静かに満ちあふれる音楽への愛が節々で心をあたためてくれます。遠い海鳴りのようなノイズが常にサーッと鳴っているローファイな録音状態も心地よいです。取り去るべきものが一つもない清廉な作品。ちなみに曽我部恵一ソロ名義でリリースされるものとしては、実に2年4か月ぶりのアルバムとなるそうです。
4. L.E.D.『GAIA DANCE』(12月2日発売)こちらは、JacksonVibe、NATSUMEN、曽我部恵一BAND、U-tom、Balloons、Innervisions、OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDといったバンドのメンバー7人によるインスト・バンド、L.E.D.のデビュー・アルバム。しっかりとしたキャリアを積んできた面々が長年に渡りあたためてきただけあって、音像のしっかりとした作品になっております。スタイルとしては空間をいっぱいに使ったバレリアック調の音楽になっており、ぬくもりのある音色の数々がふんわりと重ねられていくにつれて、耳だけでなく肌までもがくすぐられるかのようであります。ポストロック的な高揚感もあり、雑念を抱くことなくすっきりと楽しめる作品でした。
■最後まで油断のならない闇鍋的な2枚
5. Underworld vs The Misterons『Athens』(発売中)ダンス・ミュージック界で最も高い支持を集めるユニットのひとつであるアンダーワールドが、自身のルーツに迫るコンピレーション・アルバムをリリース。長年に渡り彼らをサポートしてきたミステロンズとともに制作されております。アリス・コルトレーン、マハヴィシュヌ・オーケストラ、ソフト・マシーン、クウェアプッシャー、ロキシー・ミュージック……と、収録されているアーティストの名前だけに目を通すと、かなりとっちらかった印象ですが、アルバムをトータルで聴くとすべての楽曲がしっかり共鳴してジャンルレスな世界観を形成してしまうから不思議。目玉となっているアンダーワールドのカール・ハイドとブライアン・イーノのコラボ曲“Beebop Hurry”は、作品全体をつらぬくジャジーなスウィング感と、両名の図抜けたエレクトロ・センスが見事に融和した1曲。アルバムのラストをクールにしめくくっております。
6. STICKY from SCARS『WHERE'S MY MONEY』(12月2日発売)最後はとびっきりダーティな作品を。ストリートのダークサイドをえぐらせたら日本でも随一のヒップホップ・ユニット、SCARSの一員であるSTICKYのソロ・アルバムです。作品のテーマは、ずばり〈金〉。抑えきれない欲望を嫌悪しながらも、それにすがることでしか生きていけない人間の醜さと虚しさを徹底的に糾弾するリリックが、とてつもなく痛烈。トラックも聴き所だらけで、SCARSでの盟友であるI-DeAをエグゼクティヴ・プロデューサーに迎え、モダンなアーバン感覚のあふれるビートから、サイケデリックなギターまでカヴァーする多彩な作風になっております。ゲストとしてフィーチャーされている、漢、KENJI YAMAMOTO、林鷹、SHIBA-YANKEE、BRON-K、鬼、SEEDAといった面々も熱い。自身の生い立ちや、故郷である川崎の工場街の現実が、ほとんど露悪的なまでに描写されており、途中で精神的にこたえて何度も耳を覆いたくなりましたが、あまりの緊張感ゆえにプレイヤーの停止ボタンを最後まで押せませんでした。てな具合で胃の腑もずっしりしてきたところで、今週はお別れ。次回もよろしくおねがいしますー。
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