キリンジ
2008/03/12
メジャーデビュー作『ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック』から10年を迎えたキリンジ。彼らが3月19日にリリースする新作『7 -seven-』は、これまでのキリンジが培ってきたノウハウがたっぷりと詰め込まれた作品と言える。得意とするAORラインのメロディーもあれば、前作『DODECAGON』とお互いのソロを経たからこそ生まれた実験性も見ることができる。それぞれの楽曲が持っている旨みがグッと濃縮されていながら、敷居の低さは相変わらず。力の抜きどころを理解した人たちによる、ポップ・ミュージックのお手本足りえる楽曲がずらりと並んでいる。
今回のインタビューでは、アルバムの話はもちろん、キリンジとしての活動姿勢やデビュー当時の話なんかも伺ってまいりました。『7 -seven-』のサブテキストとして、ご覧ください。
●『7 -seven-』は、普通に楽器に向かったら出来たような曲が多いような気がする
――今回のアルバムに入っている曲のうち7曲は、配信で1月ごとにデジタル・シングルという形でするという形態で先行リリースされていました。まずは、配信でシングルをリリースすることになったきっかけをお伺いできますか。
高樹 2008年でメジャーデビュー10周年だから、それをカウントダウンするものが欲しいと思っていて。それで、1ヶ月に1枚のペースでシングルを作ってみようかと。シングルを2枚くらい切ってからアルバムを出す、というリリースの流れに退屈していたということもあります。1曲目があって、カップリングに2曲くらい入っている、という、通常のCDシングルのフォーマットも段々意味がなくなってきていると思うし。10周年のカウントダウン的な意味合いと、配信の利点の両方を生かして、あとは自分たちにとって刺激になることがなにかできたらと。月に1曲だと楽にできるかと思って始めてみたらこれが意外と大変だったんですけど(笑)。
――シングルが7ヶ月連続リリースでしたよね。今回はDVD「KIRINJI PREMIUM LIVE at 日比谷野外大音楽堂」、シングル“朝焼けは雨のきざし”、アルバム『7』とまた3ヶ月連続リリースで、そういう形態が好きなのかなと思っていました(笑)。
高樹 キリンジの場合は、アルバムを一枚出して雑誌の表紙にバンバン登場、みたいな宣伝をすることは考えにくいですから。ある程度の期間続けてリリースをしたら、「今回はすごい活動している」というイメージが付きますよね。シングルの連続リリースに関しては、「今日はキリンジなにしてんのかな?」という感じで、僕らが連続して活動しているイメージをファンが持ってくれたらという気持ちもあります。
――配信シングルを全部まとめて1枚のアルバムにしようという考えは、リリース前からあったんでしょうか?
高樹 最終的にアルバムにまとめようという話はあったんですけど、アルバムをいつ出すとか、何曲入れるのかとか、具体的な話は全然決まっていなくて。だから、アルバムに入れるために曲を書いたものよりも、シングルをまとめたようなアルバムになるだろうなとは思っていたんです。最初からアルバムのことを考えて作るよりも、シングルをまとめたほうが、全体の雰囲気が華やかというか、楽しげなものになるだろうなという予想はしていて。
――そういうやり方でアルバムを作ると、コンセプトがなくなっていくと思うんです。このアルバムは、コンセプトがないからこそ、今のキリンジの素の部分が見えるような気がします。
高樹 どうでしょうね。確かに、コンセプトを決めたらそこに向かっていくわけで、それにそぐわないものは排除されますよね。そう考えると、今作りたい曲とか、今聴きたいものという感覚で作っていくことになる。しかも、1ヶ月で1曲作らなきゃいけないわけで、もっと作りこみたい状態で制作を止めることもあった。だから、デコラティヴじゃない感じだとは思います。
――06年にリリースされた『DODECAGON』は、エレクトロニックな音を積極的に入れたり、ダンス的な要素が多かったですけど、今回はもっとフラットな曲調が多い印象を受けました。
高樹 前のアルバムは、自分たちがこれまでにやってこなかったことを積極的にやろうとしたものだと思うんです。最終的にどうなるかわからないまま作業をはじめて、結果こうなったねっていう面白さがあった。『7 -seven-』は、普通に楽器に向かったら出来たような曲が多いような気がする。何がなんでもこうするって縛りはなかった。だから、今回は今までのキリンジにはない感覚と、僕らの素の部分の両方を上手く取り込めたような気がします。
泰行 結果的に落ち着いたポイントが本当に気に入ってるのかといったら違う場合もありますからね。今までと違ったことができたのが良かった、という気持ちを優先した場所もあるし。今回のアルバムは、最終的な落としどころを見ながら作った感じがあります。
――とはいえ、割と挑戦もありますよね? 5曲目の“タンデム・ラナウェイ”では、ハープとマリンバを導入したりしていますし。
高樹 あの曲は、コード進行もビートも、いろんなが人がやっているありがちな形なんです。そこに、ギターのミュートのフレーズとか、アナログシンセ然としたフレーズが出てくると「まぁ、あるな」と思っちゃうんですけど、既に聴きなれているような曲に一味違うスパイスを上手く配置できたんじゃないかとは思います。
――1曲目の“家路”も面白いと思いました。コード数を抑えたり、ホーンやギターをリズム楽器としてどう使うかを考えているような内容で。
高樹 それはあんま考えてないかも(笑)。でもまあ、チャレンジといえばチャレンジですけどね。Aメロがあって、Bメロがあって、サビって曲調じゃないし。ABCDEFって展開になってるから割と面白いかなと思います。曲の頭と終わりだと別の曲に聴こえるような感じで。
●曲を書くことから面倒臭さを省いたらいいものができないだろうと思う
――シングル“14時過ぎのカゲロウ”の時は、泰行さんがメロディを書いて、高樹さんが歌詞を書いていて、それまでになかった試みをされていました。今回はそういったことはされていますか?
泰行 “君のことだよ”はそれと逆のパターンですね。兄がメロディを書いて僕が歌詞を書いた。“14時過ぎのカゲロウ”と比較すると面白いんじゃないかと思って。
高樹 森(俊之)さんと一緒にやったのはいろいろ勉強になったよね。冨田(恵一)さん以外のプロデューサーと、根本的なところから一緒にやったことはなかったから。スタジオは根詰めて作業することが多いから、空気が淀みがちなんです。けど、森さんの性格のおかげで、無駄に悩まずに進んだんです。ライヴ感があるレコーディングだったけど、いい感じに仕上がっているのが新鮮でした。
泰行 “君のことだよ”は最初生でやろうと思ってたんだけど、結局打ち込みにしたんです。その時に森さんにお願いして。自分が打ち込みするのとは音色の選び方とかタイミングがやっぱり違うから、そういうのを側で見ているのが面白かったですね。
――これまでのキリンジの活動って、引いて見るとずっといい音楽を作っている人たち、というイメージがあります。挑戦をしてもブレがない。今回のアルバムに関しても、そういったキリンジ印が見えてくるような気がします。
泰行 どうなんですかね。今は楽器が弾けなくてもいい音楽は作れるし、カッコいいものはそっち側から出てくる傾向があると思うんです。そういう新しいものは素人性のあるところから出てくるから。でも、自分が音楽を作るときには、ギターを持って鼻歌で作っていて、ハーモニーを大事にしている。それが時代錯誤なのかなと思うときもありました。けど、最近はそれがキリンジの強みだと思えるようになってきていて。もちろん、楽器が弾けない人の音楽にだって僕らが想像できない大変なことが一杯あるとは思うんですけれど、曲を書くことから面倒臭さを省いたらいいものができないだろうと。そう思うようになってから、『DODECAGON』とかソロでやってみた新しいタイプの音に抵抗がなくなりました。自分と違うことをやっている人の音楽を楽しめるようになった。
高樹 なるべく飽きがこない音楽を作っているつもりなんですけどね。多分、泰行も僕も比較的時間をかけて作るほうだと思うんです。でも、作っているうちに飽きるものは表に出さない。ただ時間をかければいいわけじゃなくて、そこにひらめきみたいなものがないと、自分でも飽きてしまうんです。一瞬で出てきたものを時間をかけて磨いていく。それは、メロディでも、歌詞でも、歌でも基本的な部分なんです。その考えがあまり変わっていないから、そう思われるんじゃないですかね。だから、不慣れなことをやってもキリンジっぽさが見えてくるんだと思います。
たまに、自分で作った曲をMIDIで打ち込んで、メロディのパートをどうしようもなく安い音にしてみるんです。スーパーで流れるような音色にしてみたときに、自分の基準をクリアしてたら人前に出せると(笑)。ユーミンの曲なんかには、スーパーで流れていてもハッとさせられるものもあるんで。
――そういった、根本の部分で大事にしていることが変わらないのがキリンジ印なのかもしれないですね。でも、それをキープするのはタフな精神力が必要かと思うんです。
高樹 僕は、早寝早起をしてますね。精神的にフラットな状態をキープできるから。前に、ずっと机に向かうためには体力が必要だと思って、勘違いしてジムに通ったりしてたんですけど、それはちょっと違いました。午前中にジムに行ってゼーゼーして午後寝たりしてたから(笑)。
――お二人は、新人をチェックされたりはするんですか? ウェブラジオ(i-Radio)では最近のものをかけたりされていますが。
高樹 たまに奮起して、CD屋のR&Bコーナーをチェックしたりします。でも、あの辺の音楽は足が速いですよね。こないだ良いと思ったものが、すぐに「別に」と思うようになる。市場的にもそういう感覚なんでしょうけど。これカッコいいのかなと思って真似すると大変なことになる(笑)。
●いつかは別名義でカントリー・アルバムを作ってみたいと思ってます
――でも、新しい音楽と同じことをまんまやることってないですよね?
高樹 できないんですけど(笑)。そう思うと、ダフト・パンクなんかははじめからレイドバックした感じやヴィンテージ感があったから残ったんでしょうね。あのファーストは今聴いても平気でしょ?
――そうですね。あれもリリースされて10年経ちましたけど。キリンジもメジャーデビュー10周年ですよね。当時から完成されたと良く言われていましたが、実際に今振り返ってみてファースト・アルバムをどう思っていますか?
泰行 そんな言われるほど完成してないよね。アイディアががさつなところもあるし、歌詞やメロディの面でつたないところが一杯あるんです。頭でっかちな感じもするし。最近の曲のほうが凝った展開をしていても利にかなった展開をしていますからね。
高樹 ファーストは冨田さんの影響がすごく大きかったですね。当時は、思ったことを全部やらなきゃと思っていたから、今聴くとアレンジの面で「これいらないんじゃない?」と思うところは結構あります(笑)。
泰行 アレンジは冨田さんと我々が一緒にやってたんですけど、こちらのリクエストを冨田さんが一緒に面白がってくれたのが良かったですね。他の人に話したら「これ、どうなの?」って思うようなことも冨田さんは聞いてくれる人でしたし。
――ファーストは未熟な部分があったとしても、愛着に近い聴かれ方をしている作品だと自分は思っています。
高樹 どうなんですかね、僕はそういうのないですけど(笑)。きっと、多感な時期に聴いてくれたファンが多かったんじゃないですかね。多感といっても20代のリスナーが多かったと思うんですけど(笑)。リスナーの思い出も込みで聴かれているような気はしますね。
――以前リリースされたソロ作についてもお伺いします。あれは、お二人の趣味性を発揮するためにリリースされたのかと思っていたのですが、聴いてみたらそうでもなかったりして。今振り返って、どういった位置づけをされていますか?
高樹 泰行の場合は、よりパーソナルな表現だったと思うんですけど、僕は暇だったんでセッション・バンドでもやるか、みたいな感じで特に方針がなかったんです。キリンジが次にどう動くかの試みの場所っていうか。家で試行錯誤するのもいいんですけど、それだとお客さんが楽しめないから。
泰行 音楽的な趣味性はあんまりなかったですね。それまでも好きなことはやれていたんで。ソロだから思いっきりカントリーをやろう、みたいな発想もないし。位置づけとしては、キリンジでは兄と僕の方向性が折衷された音楽なので、もっと丸々1枚自分の音楽で満たされているものを作りたかった。ただ、できあがったものが自分の目指していたところに落とし込まれているかというと、そうでもない(笑)。僕的には、お互いのソロと『DODECAGON』は一連の流れで、それがあったからなんとなくもがいていたことが形にできるようになった感じはしています。
――形にできるようになったのは、セルフ・プロデュースを経たことが大きいのでしょうか?
泰行 それも大きいですね。今までは、サウンドとかアレンジの面で、「このレコードのこの音がいい」という理由で過去にあった音楽に近づけるような作り方をしてきたんですけれど、ソロのタイミングからそれを辞めることができた。まず曲があって、リズムを組み立てていく作り方のコツを把握するようになったんです。それまでは、ミックスとかアレンジの作業中に、ほかの人のCDを山ほど積んでいたんですけど、今はそれもない。
――キリンジのイメージからちょっとはみ出したものを作りたいという欲求はないんでしょうか?
高樹 そういうことをやってみても、「キリンジじゃん」って言われちゃうんです(笑)。いつもと違うって言われたのは“ロマンティック街道”くらいですから。でも、いつかは別名義でカントリー・アルバムを作ろうと思ってます。もうバンド名もある程度決めてあって〈グラノーラ・ボーイズ(Granola Boys)〉、もしくは頭になにか付けて〈○○グラノーラ・ボーイズ〉。アルバム名は『Granola Boys Goes To ○○』っていうのにしようかと(笑)。とにかく、カントリーだけで統一したアルバムをいつか作りたいですね。
(2008.02.06 六本木コロムビアにて)
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