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iLL

2009/06/17 | タグ:

iLL(ナカコー)
Text:ロマンス西崎

 ナカコーが止まらない。iLL名義で届けられた新作“Kiss”は、テレビCF(NTTドコモ)で使われた“All You Need Is Love”カヴァーのリテイクを含む4曲入りのシングルであるが、なにより引っかかるのが、じつはそのジャケット。“Kiss”だからキスマークをあしらってある、そんな連想は誰にだってできる。しかしながら、クレジットに目を凝らすとこうした文字列がある。〈Cover Kiss Mark:Kago Ai〉と。

 いかにも突っ込まざるを得ない趣向を用意・公開しておきながら、涼しい顔を崩さないナカコー。意図や動機を探りたいというよりは、ひたすら「釣られないクマー」としか言いようがない。そんな我慢くらべ然とした現場であったが、見方によってはスーパーカー解散以後の彼の、ひとつの象徴的なインタヴューとなっている。かもしれない。

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・iLLの作品を紹介
5月27日にリリースされたシングル“Kiss”
7月29日にリリースされる、砂原良徳がプロデュースしたシングル“Deadly Lovely”
1月にリリースされたシングル“R.O.C.K.”
08年にリリースされたアルバム『ROCK ALBUM』

●スケーターが公共物に書き殴るグラフのようでありたい

――こういうのもナンですけど、これまでナカコーさんに接触してきたようなライターからすれば、僕はきっとまったくの畑違い。なので不躾で申し訳ないんですけど、ひとまずはiLLの根底的なテーマから確認させてください。

ナカコー iLLに関しては、スケーターが公共物に書き殴るグラフのようでありたいなと。またはKLFのマークであったり、極端なことをいえばJISマークでもタミヤでもいいんですけど。

――記号として衆目に晒されたい? もしくは特定の集団の旗印となりたい?

ナカコー CBGBのTシャツをおばちゃんが着ているのを見たことがありますか。ああいうことかな。

――ああ、なるほど、理解できました(笑)。要は、ひとり歩きの余地?

ナカコー 僕が意味を込めるというよりは、捉えるひとが捉えればいい。見る人に任せたい。

――とはいえ、その“放任”のやり方にもいろいろあるでしょう?

ナカコー レジデンツ(※1)とかね、基本的にああいう人たちは好きだから。あの目玉のマークが浸透している。でも、実際は作品としてファースト・アルバムがどれで、セカンドがどれで、というまでわかる人は少ないのかもしれない。

――たとえば「iLLをやってるのはナカコーである」という情報をどう扱うか、とか、すべてに作為の込めようがあるわけですが。

ナカコー うーん、もちろんそのへんも考えてないわけじゃない。けど、現状として、考える必要はないかなと。情報を放っておいても、それをわざわざ取りにいく人はわずかだという実感がある。いくらインターネットに膨大な情報があるといっても「そんなことウィキペディアで調べろよ」とか「ググれ」とか、いまだにその程度の問答があふれているわけだし(笑)。

――人はそこまで見てないよ、と。

ナカコー そう、ネットも雑誌も。だから、問題ないよっていう意識はある。反対にいえば、きちんと調べさえすれば実像にたどり着く。iLLに関してはそれでいいと思ってます。一方で、ぜんぶ嘘、ぜんぶ虚構で、実像にたどり着こうとしても永遠に届かない。そういうものも個人的には好きですけどね。

――ニュアンスはわかるんです。ただ、どうにせよリスナーにとってのハードルは上がる。調べればわかるとはいえ、いちおうは匿名性を帯びたものが、取っつきやすいとは思えないという意味で。あるいは、被害妄想が豊かな人には、既存リスナーのふるい落としにも見えかねない。

ナカコー それを言うなら、もはや匿名性があろうとなかろうと、同じような状況だと思いますよ。イイもの、面白いものを作れば、評価される。この流れ自体は変わらないと思いますが「評価=CDが売れる」ではなくなった。極端にいえば「他人の制作物に金を払う」ことが「釣られた」にあたる時代性?

――まあ、わかります(笑)。たしかにここ数年の買い物の感想は「あああ、つい買ってしまった……」ってのが多い。おかしいなあ、この敗北感(笑)。

ナカコー それだけYouTubeやMySpaceにフォローされちゃっている部分は大きいし。肯定するしないは別として、金を払わなくても大半のものが手に入る世の中になってきたのは事実で。

――しかしこうして“Kiss”という新譜が、確たるパッケージとして世に出ます。定価は1,529円ですと。フツーに考えれば商品は売れるにこしたことはないわけで、そうなると「このジャケットのキスマークは加護亜依によるものです」という宣言に対し、ここでフォーカスせざるを得ない……(笑)。

ナカコー 経緯としては、キスマークというアイディアは当初からあって。なおかつ、それが有名人のものだったら面白いよねと。これを受けてスタッフと話し合った結果「加護ちゃんでしょう」という結論に落ち着いて。

――悪ノリ?

ナカコー ないないない、ぜんぜんない(笑)。

――でも、あいぼんのキスマークでなきゃいかん理由というか狙いみたいなもの、あるわけでしょう? どのようなコラボレート形態を取るにせよ、妙な勘繰りが起こりうることも想像してたと思いますし。

ナカコー 趣向としてあるとすれば、さっき言ったような「調べていくとわかる」という部分の面白さ。たとえば3年後、なんの前情報もなく中古CD屋でこの盤にめぐり会ったような人が「iLLってなんだろう」と思って調べてみるとなぜか加護ちゃんに行き着いちゃう……みたいなイメージ。

――物好きな(笑)。

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ナカコー そう、物好きな遊び。こちら側の最低限の目的としては「タイトル“Kiss”のジャケットにキスマークがある」だけで良いといえば良い。ただ、個人的に、たとえば映画を観ていたら気になる人がいて、誰だろうって調べてみるとじつはすごい人だったり。あまり顔を出さないけど有名な作家さんが関わっていたり。そういう発見が好きなので。

――そう聞くかぎり、腹黒いものではないですね。

ナカコー 加護ちゃんのキスマークを目当てに僕の作品を買う人がいるのかどうかはわからないし、いたら面白いと思うけど、それが主眼ではないですからね。さらに言うなら、企業の論理で作った製品にはしたくないから。それこそ、たとえばPerfumeにお願いして、ジャケットを3種類作って、1人に3枚買わせようよみたいな考え方(笑)。これだと、あまりにひどすぎる。

――ええ、露骨すぎますよね(笑)。ちなみに、あいぼんの魅力ってなんでしょう?

ナカコー 僕みたいな無知な人間が語ると怒られるとは思うけど、ハードコアな部分とそうじゃない部分っていうのが両立しているから面白いと思うんですよ。なんて言うか、全部を醸し出せてる人。作られたアイドルっぽくなくて、人間力でやってるような気がします。

――もし、この申し出を彼女に断られていたら、どうしてました?

ナカコー じつはキスマーク選考会議中には、叶姉妹とかキム・ゴードンなんて案もありましたが……(笑)。

(※1)レジデンツ
 目玉のかぶりもの&タキシード姿で30年以上活動を続けている前衛音楽グループ。メンバーのパーソナルな情報はもちろん、所属メンバーの数も定かではなく、匿名的な活動をしている。謎だらけで、音楽性もわかりやすいとは言いがたいが、彼らのコンセプトを貫き通す姿勢に影響を受けたアーティストは世界中に数多くいる。左画像は、74年のデビュー作『Meet The Residents』。

●他のミュージシャンの行動とか音楽の聴き方を見てると「あ、俺、違うのかも……」って思う

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――ここまでお話を聞いてきて、iLLでありナカコーさんの現在の気分みたいなものがなんとなく受け取れました。単に音源というよりは映像的なヴィジョンというか、それがナカコーさんのなかでいまのところ順調に満たされているような。

ナカコー 完全な状態ではないですけどね。バランスっていうのは、何かの拍子に崩れるものでもあるし。いわゆるネット世界的なものと、現実的なものと、その両立ひとつとっても大変な作業で。

――前者に対して、まったく価値を置かず、もしくは封殺的に圧力をかけるという事例もあるにはありますよね。

ナカコー どちらか一方を取るっていう判断もアリだとは思うんですよ。僕はできないけど。両方が存在してこそうまくまわることがあると思うので。

――その点において、なにかしら展望はありますか?

ナカコー いっぱいありますけど、現段階では僕ひとりでどうこうなる問題ではない気がしてます。(いまの枠組みやツールを利用したうえで)新しいことやりたいと思ったときに、単純な問題として、規制や障害があってできない。いざ企画を動かそうとして「あ、ここはさわっちゃいけない領域なんだ」みたいなこと、よくあるから。とくに著作権的なものとか。

――なるほど。そこに危機感はありますか?

ナカコー 危機感っていうより「面白いことができるはずのになんでやれないんだろう」っていうストレスが大きいですね。「企業がやってることが古い」とか「悪い」とはまったく思わないですし、個々に事情が複雑なのもわかる。ただ、僕の立場としては、いま現実にあるツールを使うともっと拡がるのに、もっと面白いのに……と思っているだけです。

――あえて、奥歯にものが挟まったまま進行します(笑)。とはいえ、声を荒げてる感じでもないのが新鮮。これに際して組合を作ったり、運動を起こしましょうみたいな気運が高まることはないんですか? たとえば宇川直宏氏(過去、映像作品『iLLusion by iLL』にてコラボレート)とかと酒を飲んでいるような場で(笑)。

ナカコー そんな気配はないですねぇ。宇川さんとは、そういう話はあまりしませんから。実現不可能のようなことを可能にしてしまう人ですからね宇川さんは(笑)。

――訊くのが間違いでしたね。

ナカコー 「いま、こういうの作っててー」、「え、マジ? ヤバイねー」っていう会話が多いかも。

――すごく観念的な話になってしまうんですが、スーパーカーの結成が1995年。ここまでさまざまな形態があったと思いますが、いまなおモチベーションを保ち続けるということ自体に、なにかしらのむずかしさは感じない?

ナカコー 僕の場合は、なにごとにおいても、楽しくなくなった瞬間に止めると思う。音や映像の制作、ライヴにしてもそう。ずっと前から、自分はミュージシャンっぽくないなと思ってますし。ギター弾きだからといって、新しいギターが欲しいとか……あまり思わないし。家にギターを置いてなかったりするし(笑)。他のミュージシャンの行動とか音楽の聴き方を見てると「あ、俺、違うのかも……」ってのは多いから。立ち位置的なことから、音楽まで含めて好きなのはやっぱりブライアン・イーノ(※2)っていう。あの人もミュージシャンではないし。自分でもノン・ミュージシャンだって言ってるし。そこに関してすごく自覚的な人。ふら~っとやってきて、ふら~っとU2のプロデュースしてヒットさせたら、またふら~っと一部の人にしかわからないようなアンビエントの世界に戻っていったり。

――ああ、いまさらこんなことを言うのはどうかと思うんですが、今回“Kiss”ってタイトルで新譜が出たんだから、「ナカコーさんの初めてのキスはいつだったんですか?」とか「どういうキスが理想ですか?」っていうインタヴューを浴びせてもよかったわけですよね(笑)。

ナカコー どこかのファッション誌で見そうだよね(笑)

――しかし、実際は極めて観念的になってしまう。これは我々がナカコーさんに導かれていると思っていて。それは面白いことだなあと。なにを言いたいかといえば、いま言ったような……「初キスについてコメントお願いします!」みたいな方が、じつはナカコーさんがやりやすかったとするなら、いまさらですが謝りますって話で。それはそれで意外性はあるけど、メンタリティーとしてはスッと腹に落ちるというか。

ナカコー いやいや(笑)。それはそれで、んー、いや、どうだろうな俺……。ああ、でもやっぱりキツイと思うなあ、そっちは。

(2009.05.18 神宮前YAMAHAにて)

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(※2)ブライアン・イーノ
 ロキシー・ミュージックのメンバーとして本格的に音楽活動をスタートし、デヴィッド・ボウイ、トーキング・ヘッズなどのプロデューサーとして知名度を上げ、アンビエント・ミュージックを世に知らしめたミュージシャン。自身をノン・ミュージシャンと呼んでいるが、裏方仕事のみではなく、ソロ作やコラボ作など、名前が前面にクレジットされた作品も多い。左画像は、08年にリリースされたデヴィッド・バーンとの共作『Everything That Happens Will Happen Today』。

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