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井口啓子の西日本ロック紀行

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No.288 サブカルチャー meets「がんフーフー日記」

2011/07/21

Text: 井口啓子(SUPER!)

 今春、とあるイヴェントでサニーデイ・サービスの曽我部くんと久々にお話した際、10年以上も交流が途絶えていた、ある共通の友人の意外な近況を知らされた。そして――。しばらく後、手にした本がこちら。「がんフーフー日記」。

 〈笑って生きた、ある夫婦のがん闘病ブログ〉と帯にあるように、これはがんになってしまった妻とその夫、そして新生児の一家にまつわる物語。その著者である川崎フーフの〈旦那〉が、私の知っている清水浩司くんだ。黎明期の「BARFOUT!」での編集丁稚を経て、音楽ライターとして活躍。一時期、文芸レアグルーヴというユニット名であちこちに出没していたので、見覚えのある人もいるのではないだろうか?

 本についての詳細は、こちらに目を通してもらおう。そもそも、闘病中のフーフの様子を旦那が友人各位にいちいち説明せずとも、なんとなく情報共有できるように――という目的ではじまったという本ブログは、一般的には〈闘病もの〉と位置づけされるのだろう。が、そこは家族や友人に囲まれ、自分らしく笑って生きてきたフーフの人柄ゆえ。本人の生活スタイルや金銭・家庭事情を踏まえた上での治療法の選択、闘病を支える側の心構え、迷いや葛藤など、がん闘病を知る上での情報もしっかり紹介しつつ、がんも子育ても音楽もお笑いもハンバーガーも友達とのバカ話や家族団欒もひっくるめた、あるフーフの〈日常〉があくまで飄々としたタッチで鮮やかに描かれていて、誤解を恐れずにいえば、あたかも一本の青春群像映画を見るようで胸がきゅんと切なくなる。

 もちろん、仕事と子育てに謀殺されながらの末期がんとの闘いは、ここに描かれている以上に壮絶なものがあったはず。何をどうやっても泣き止まない赤子を前に〈「なんで泣くんや!」と確かに声を荒げたし、もしあと少し、理性が残っていなかったら、窓からジャイアントスイングで赤子を夜空に放りかねない勢いでした〉なんて下りには、あるある~と深く共感してしまったが、後日、親族が集った際に赤子が大量のウンチを漏らし、リビングが地獄絵となったときは、逆にみんなが笑いながら見事な連携プレーで後始末をしたことを受けて、〈ひとりだとすぐいっぱいいっぱいになるが、みんなでやるとたのしくて、いつのまにかなんとかなっていたりする〉と発見する下りには、そうだよなあと目からウロコ。これまで友人・知人という〈縦糸〉社会で生きてきた彼が、二家族・三世代が赤子の誕生を期に集結してゆく様に、これまで御免被りたいと思ってきた連綿と続く縦糸社会にがっちり織り込まれたしまった自分を感じつつ、こんな縦横のタペストリーの中なかで生きてゆくのも悪くはないと思い当たる下りは、モラトリアムな青春を30代まで引きずってきた文科系人間にはたまらなくグッとくるものがあった。

 そう、本人がブログでも書いているように、この本のテーマは〈サブカルチャー meetsがん〉でもある。ガロリンズの故・藤井よしえさんのブログでも、壮絶な闘病中も音楽やファッションや友人や遊びといった〈日常〉を変わらず謳歌する姿勢にこちらが勇気をもらったが、この川崎フーフもまたしかり。闘病中も音楽や本を愛し、〈ヨメハゲフェス〉(ヨメを励ますフェス)なる企画を催すなど、自分たちの変わらぬ日常を楽しむことを忘れなかった彼ら。先日、本書の出版記念として開催された〈ヨメハゲフェス2011〉には、なんとサニーデイ・サービス、permanents(GRAPEVINEの別ユニット)、秦基博、そして渡辺祐といった面々が集結した。

 そこで配られたリーフレットの原稿が「がんフーフー日記」ブログにて現在公開されている。書籍の元の過去の記事も読めるので、興味をもった方はぜひ読んでみて欲しい。夫婦や闘病や育児といったことに関係がない人も、きっと心揺さぶれるナニカがあるはずだ。

「がんフーフー日記」ブログ


「がんフーフー日記」
4月に刊行された「がんフーフー日記」

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