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井口啓子の西日本ロック紀行

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No.287 平凡な日々に浸透する、二階堂和美の『にじみ』

2011/07/07

Text: 井口啓子(SUPER!)

 二階堂和美のニュー・アルバム『にじみ』が発売された。「ものおもいにふけるとき歌はいらない 考えを深めるとき歌はいらないの 考えるのをやめたいとき歌がほしいの 歌がいるの」とうたう冒頭曲“歌はいらないの”から、いやおうなく引き込まれる。これはまぎれもなく、3.11以降の日本で生きる私たちの音楽なのだ。

二階堂和美“女はつらいよ”PV

 二階堂さんがどんな個性を持つシンガーで、これまでどういったシーンでどういった活動をしてきたか――といったことを知ってる人も知らない人も、まずは“女はつらいよ”のPVをご覧あれ。彼女が暮らす広島の実家のすぐ近所で撮影されたという映像。川沿いの塀に腰掛け、通りがかりの顔見知りのおばあちゃんや小学生の男の子と挨拶を交わし、カメで遊び、実家の台所で花を水に放つ。そんな 平凡ながらも宝物みたいにキラキラした情景の数々に、疎ましくも懐かしい故郷を思い出してホロリと来る人も多いだろう。

 「ああ、あなたが好きですと 言えぬままに二度とは会えぬ」と悠久の流れのごとく歌い上げる“女はつらいよ”、「それは~ああんあんあんあん、あなたにふた月前に任せた仕事でしょ」「それでもまだ信じてる~」とコブシの効かせて愛嬌たっぷりに歌いあげる“説教節”(のモデルはなんと、レーベル・オーナーの角張氏!)。かつての歌謡曲のように老若男女が近似感を抱き、そこに我が身を投影して口ずさまずにはいられないメロディーと詩世界を時に優しく、時に情熱的に、時にしっとりと、ごくたまにフリーキーに歌い上げる。まさか今の時代にこんなど真ん中の歌が聴けようとは。なるほど、これはシーンのどうこうなど関係なく、あんな場所であんなふうに暮らしている人だからこそ、作れたアルバムなのだ。

 そんなふうに歌の佇まいこそ自然だが、ルンバなリズム歌謡あり、ジャズ・ピアノが彩るワルツあり、ブルースあり、これだけのヴァラエティーに富んだサウンドを乗りこなすリズム感と歌唱技術は相当なものだよなあと。笠置シヅ子も真っ青の〈歌手・二階堂和美〉に改めて圧倒されたり。

 願わくば、普段、音楽をわざわざ聴くような生活をしていないような人にこそ、このアルバムが届けばいいな、と思う。そういう人の日常にも無意識ににじみ、浸透してゆく。そんなパワーを持つ音楽だから。誰もが傷つきながらも新たな歩みをはじめつつある、この国のあちこちで二階堂さんの歌が鳴り響けば、きっと未来は明るいはずだ。

 なお、二階堂さんの新作としては、他にUSのシンガー・ソングライター、タラ・ジェイン・オニールとの共作アルバム『タラとニカ』が発売中。こちらは、楽器や歌を用いたお喋りのように自由でリラックスしたセッションが楽しめる。あわせて、ぜひ。

・二階堂和美の作品を紹介
7月6日にリリースされたニュー・アルバム『にじみ』
5月にリリースされたタラ・ジェイン・オニールとの共作アルバム『タラとニカ』
2010年作『solo』
2008年作『ニカセトラ』

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