No.226 前野健太の『さみしいだけ』
久々に胸にすとんと届いてくる〈うた〉がありました。新世代のシンガー・ソングライターとして、じわじわと評価を高めている前野健太のセカンド・アルバム『さみしいだけ』。
東京で暮らす若者のありふれた日常の歓喜や感傷や憂鬱をフォーキーなメロディにのせて、やわらかな歌声でぽつぽつと歌い上げる彼。単純な情景描写のようで奔放なリリシズムがほとばしる詩世界は、なるほど〈東京のボブ・ディラン〉。バーズやザ・バンドを彷彿させる、あたたかなアンサンブルもたまらない。
なかでも深夜バスで訪れた京都の鴨川の情景について歌った“鴨川”は、永遠をつかみとったようなイントロから、名曲の予感ビンビン。通り抜ける風のように、瑞々しくスケール感あふれるメロディに、靄が晴れ、朝焼けが水面にキラキラと反射する早朝の鴨川の情景がありありと浮かび上がってきます。〈雨よ雪に変わってくれ〉なんてロマンチックなフレーズは、京都の底冷えを知る地元民には絶対歌えないよなー、なんて。この曲のプロモ・クリップがまた最高。ソノ筋ではおなじみの女優、長澤つぐみがただ踊り続ける様に、シンプルだが胸をつかれる。
〈さみしいだけ(オンリー・ロンリネス)〉だなんて、感傷的でありながら一切の感傷をふっとばすような潔いタイトルが、すべてを体現している気もする。サニーデイ・サービスの『東京』や直枝政広の『ホプキンス・クリーク』、都市レコードの『シングアゲイン』に続く、漂泊の都市生活者のためのサウンド・トラック。音楽って、こんなに単純で(だからこそ)いいんだーって、改めて実感できる一枚です。
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