No.213 〈ビターな夢をみる甘党〉PADOKのニューアルバム
2008/08/19 | タグ:PADOK
東京都小金井市在住の渡部牧人によるソロユニット、PADOKのニューアルバムが発売された。
クラシックのピアノ小品のようなイントロで幕を開け、酩酊感漂うメロディがやがてロードムーヴィーさながらの風景を紡ぎだす本盤を聴いて、一種の近似感――もっといえば、他人のものとは思えないような懐かしさや心地良さ――を抱く人は、決して少なくはないだろう。
とりとめない日常の呟きがそのままフォルムを得たような歌声。シンプルでいて合わせ鏡のように無限の奥行きを描きだす、肉感の欠如したつかみどころのないサウンド。ムンと立ちのぼるような匂いや熱を帯びた音像は、ポストロック~音響~エレクトロニカ~スロウコア……といったシーンに呼応しながら、そのいずれとも一線を画する唯一無比のものを感じさせる。
それは、ヴンダーやオーウェン、ボニー・プリンス・ビリー、あるいは羅針盤、トクマルシューゴ、テニスコーツ……など、彼がフェイバリットに挙げるアーティストに共通する個性でもあるが、それ以上にPADOKという人の性質なのだろう。
まるでジオラマでも作るかのように、気の遠くなるような膨大な断片で緻密に構築されたPADOKの音楽は、箱庭的ナイーヴさと同時に、不思議なスケールを感じさせる。ただし、それは手を伸ばした瞬間、砂漠の蜃気楼のように痕跡もなく消えてしまう種類のものなのだけれど。
『Sweet tooth having Bitter dreams』というタイトルには、〈ビターな夢をみる甘党〉といった意味が込められているという。PADOKの音楽に一貫して感じられる〈哀愁〉のようなものは、人生のほろ苦さを味わい尽くした者の諦念では決してなく、ベッドルームでまだ見ぬ風景に思いをはせる夢想家の感傷にすぎないのだ。クーラーの効いた部屋の中で、じりじり照りつける太陽をガラス越しに眺めやりながら聴きたい。そんなインドア派の夏にぴったりのサウンドトラックです。
・PADOKの作品を紹介
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