No.205 旅するエッセイスト、扉野良人さんの「ボマルツォのどんぐり」
2008/06/17
前回(→ こちら)に引き続き、本ネタです。今回は京都の友人、扉野良人さんの初のエッセイ集「ボマルツォのどんぐり」をご紹介。
扉野さんは古本好きに「sumus」、「モダンジュース」といった同人誌への寄稿でおなじみの人ですが、実は本業はお坊さん。しかも、彼のいるお寺(実家)というのが「ガロ」の初代編集長の故・長井勝一さんの菩提寺であり、赤瀬川源平さんや坪内祐三さんをはじめ、名だたる文化人が訪れる、知る人ぞ知るサロンでもある――ということで、サブカル的にも興味深いエピソードをたくさん持つ方なのです。
私自身、彼のお寺に何度かお呼ばれしたことがあるのですが、一度目は知久寿焼さん(ex.たま、パスカルズ)がいらしててビックリ。二度目はご家族のみ在宅でしたが、伊丹十三のようなダンディなお父様が赤ワインを開け、大きな生ハムの塊を切り分けておもてなし。マカロンをつまみながらの食後の団らんでは、お母様に「好きな映画をみんなで一本ずつ挙げて行きましょう」と提案され、軽~くカルチャーショックを受けました。
そんな(私から見ると)特殊な環境ゆえ、幼少時から当り前のように文化的な事象に親しんでいたという扉野さん。特に古本に関しては、坊さん見習いを始めた高校生時代から自転車で檀家を廻りがてら、あちこちの古本屋をディグしていたというツワモノ。「袈裟で古本ハント」とは、また業が深い……という気がしなくもないけど、「本を買うのは偶然の産物。出逢った時にそれが自分の懐具合に合ったものなら買うし、逆にいえば、そういう本だからこそ出逢えると思う」なんて言われると、さすが坊さんと納得せざるを得ない?
「〈書を捨てて〉ではなく〈書を持って〉旅に出るのが好き」という扉野さん。「ボマルツォのどんぐり」は、そんな彼が澁澤龍彦のエッセイに登場するイタリアのボマルツォ庭園や田中小実昌の生家のある広島県呉市を訪ねた、エッセイを中心にまとめたもの。本を読むだけでは満ち足りず、作者の目にした風景を求めて各地に足を運び、感傷のカケラ(実際に、それはどんぐりや鳥の巣だったりもする)を持ち帰っては追憶をしたためる……という行為を繰り返す扉野さんは、まさに古本界の放浪詩人。
批評やうんちくというよりは純粋なエッセイとして楽しめる本なので、マニア以外にもおすすめ。かつてモンドミュージックに代表される「音楽の聴き方」が新しいリスニングスタイルを切り開いてみせたように、扉野さんの「古本の読み方」もまた、古本シーンに新風を巻き起こす日が来るかも?
・本文の関連作品を紹介
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