No.179 〈おっさんの体にユーミンが宿る〉突然変異ミュージック、かえる目
表現に純粋さや生々しさを求めようとあがけばあがくほど、そこから遠く離れて行ってしまうのは人類のサガなのでしょうか? ならば、人間やめればいいじゃん、とばかりに登場したのが〈かえる目〉。その筋ではナゾの知識人として知られていた〈EVさん〉こと、細馬宏通さんのユニットです。
並々ならぬ音楽ファンではあれど、演奏者/歌唱者としての活動を一切したことのなかった男が、40歳を超えたある日、突然歌い出したという経緯に興味半分で聴いてみて、絶句。アタマに浮かんだ事象をアコースティック・ギター片手に即興で抑揚をつけて喋り綴ったような言葉は、危うくも懐かしい旋律を描き出し、その歌声は「きみがぼくのこと音痴っていゆっても ぼくはけろっ ぼくはけろっ あんまり気にしない(『音痴というもの』より)」とばかりに飄々ととらえどころがなく、 見ず知らずの人のプライヴェート録音のテープを聴いてしまったような居心地の悪さが、やがてピュアな感動へと変わってゆくリスニング感は、いまだかつて出逢ったことのない感じ。
〈おっさんの体にユーミンが宿る〉のキャッチフレーズに、しみじみ納得。「新着来た 未読みた 書き込み書く かきくけこ(“高度情報化社会”)」、「サイフくわえた 愉快な女が おさかな忘れた ドラネコ追ううた(“女刑事夢捜査”)」といった詩世界も超アヴァンギャルド。このトボけたようでなんとも滋味深い味わいは、テクノロジーからお茶の間ネタまで、膨大かつ縦横無尽な知識をもつ人間があえて一筆書きしてこそ、出せるものなのでしょう。
ちなみにバックを支えているのは、宇波拓、東の畸人・中尾勘二、木下和重といった即興音楽界の重鎮。CDのカバーイラストはなんと、倉地久美夫さんの書き下ろし。奇才のもとに奇才が集った、ちょっとお目にかかれないアルバムです。
ちなみに今週、12月13日16:30~は京都のガケ書房でインストアライヴ(無料)あり。かえるといえば……のガケ書房だけに特別な何かを期待したいのが人情ってもんでしょう。残念ながら私は仕事で行けませんが、関西の方はぜひ行ってみて下さい。27日には京都・アバンギルドにも木下和重との二人ver.かえる属名義で出演。対バンは以前にこちらで紹介した長谷川健一と勝野タカシ。こちらもぜひに。
・文中に登場したアーティストの作品を紹介
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