第5回 七尾旅人さんとお話しました(前編)
ども、こんにちは! 今回は気になる人、七尾旅人さんとお話しをしてきました。合計4時間、途中でOOPS!の担当の方も「仕事に戻ります」と退席し野放しとなるという長丁場。2000字前後でお願いしますと言われながら毎回文字数オーバーしているこの連載ですが今回はついに1万文字弱!
やけのはら 今日はお忙しいところありがとうございます。七尾さんのことは、お名前は大分昔から知ってたんですけど、音を聴いたことなくて。歌を歌っている人だということは勿論知っていて、デスメタルの人ではないなとは分かっていたんですが(笑)、申し訳ないんですがこの頃ちゃんと知ったというか。だから結構フラットというか何も情報がない感じでいきなり『911FANTASIA』を聴いたんです。雑誌のインタビューを読んで興味を持って。で、友達と話してたら貸してくれて、それで聴いたらビックリしたというか、もう感動して。あの構成力というか、自分も細々と音楽を作ってるんで、ああいうボリュームで一つ筋の通ったものをしっかりと奇をてらわず作り上げることがいかに大変かというのもわかるし、凄いなと。
七尾旅人 ありがとうございます。結構ミュージシャンの人には評価していただくことも多かったんですが、音楽雑誌なんかでは「これを一枚でまとめられればよかったのだが」とかそういうレビューも載ってたみたいです。
やけのはら あ~でも、あの長さが良かったなと思いましたけどね。なんか失礼に当たったら申し訳ないんですけど。あの~、愛聴してるかっていうとそうでもなくて、なんか映画みたいな感じがしたというか。最初に続けて最初から最後まで通して聴いたんですよ。で、ド~ンと衝撃が凄くて、次に2枚目の途中の1曲だけ聴こうって気分にならなかったというか、半年に1度くらい正座して通して聴くみたいな…。でも映画とかだったらそれって普通じゃないですか? 〈私、「2001年宇宙の旅」好きです〉って言っても毎日見てる人っていないじゃないですか? だからなんかそういうところも挑戦的に感じたというか。例えば60分のフォーマットに収まってて、iPodで毎日聴かれる音楽だけが良いのかっていうとそうでもないんじゃないかなと。僕、まだ数えるほどしか聴いてないんですけど、本当に凄いビックリしたというか、ここ10年で聴いた音楽の中でも1番って言っていいくらい驚いたというか、あ~音楽でこういうこともしていいんだって、凄く心に残ったというか。大きいテーマだし、その長さじゃなければ表現できないものじゃないですか。凄い斬新だなって思いました。
あと凄くポップな気がしたんですよね。僕とかって自分で音楽作ってたり一般的な基準でいうとマニアックな音楽リスナーじゃないですか? で、そういう僕が聴いてもお祖母ちゃんとかが聴いても『911FANTASIA』が表しているものは同じ感じで伝わる気がしたっていうか。音楽に対する予備知識があろうがなかろうが関係ないというか。そういう意味でのポップというか。そしてですね、ライヴを見たんですよ、去年の夏に。で、あ~凄いなって思って。なんか本当にいきなり『911FANTASIA』を聴いただけだったんで、どんな人かっていうのも知らなくて。で、僕からはなんていうか丸みのある人に見えて。アルバムが志の高いクオリティーの高いアルバムだったんで、もしかしたら凄くとっつきづらい芸術家タイプの人なのかなって、ちょっと思ったんですけど、ああ良い人だなって思って。で、『気になるアイツ』っていう気になるものを取り上げるという連載をやっていて、新年も明けたことだしお話を伺いに行こうかなと。
七尾 ああ、嬉しいです。
やけのはら 今更ですけど『911FANTASIA』の話を聞かせてください。ぼんやりしてますけど、どんな意気込みでどんな風に作ったんですか?
七尾 まず、一人で打ち込みで作りたいなって所から始まりました。それまで紆余曲折があって、最初10代のときにメジャーからデビューするのですが、それが98年で、国内のレコード総売り上げが過去最高の年だったんです。翌年からもの凄い勢いでレコード不況に突入していくのですが、その年は小室バブルとかの飽和点で、潤ってた。だから何処の馬の骨とも知れないおかしな新人でも、入る余地があったというか。まあ、すぐ切られるんですけど。
で、2000年以降、独力で制作して行くやり方を模索しながら悩んでたのですが、やっぱり一人だからこそ妥協せずに色んな音を出したいな、ミュージカルみたいな広い振れ幅の中で物語がやりたいなって思って。ソフト・サンプラーとかをパソコンに入れてみることからスタートして、練習感覚でぼちぼちデモを作っていって。結果3年かかりましたね。でも、精神的な部分では凄くモチベーションが定まっていて、それが911って部分なんですけど。戦争が進行する過程で考えていたことは、音楽がもたらすファンタジーみたいなものが自分たちの世代以降、昔と同じようなテンションでなりたちうるのか?ってことでした。60年代みたいなポップカルチャーが始まって覚醒していった時代から既に40年たっているわけじゃないですか。その中でどういう事が成り立ちうるだろうかって。昔はヒッピーとかが本気で〈音楽で世界を変えられる〉と信じてた。でも、俺たちの20歳くらい上の親の世代でさえ、もうそういうのは信じてない。僕は、ヒッピーは得意じゃないですが、なんていうか、過剰な音楽が好きだったんです。ミュージシャンが音楽にすべてをゆだねているような、マーヴィン・ゲイとかフェラ・クティとか。
90年代にオウム事件とか震災とか色々あった後で自分がプロになってCDを出した時に、コネクト出来る場所がなかったんですよね。進行形の音楽にファンタジーを感じられなかった。で、色々考えたんです。音楽がこれから先、何をもたらすことが出来るかって。あと、20歳の時にメジャーから落ちて、自分のサイト立ち上げる2003年までの空白の3年間っていうのがあって。その時は、何の告知も出来ないし、仲間もいないし、俺は完全に終わったって思って。その辺の感覚も結構ベースになってるかも。切迫してたんですよね。どうやってこれからもう一回自分の仕事を立ち上げていくかなって、悩んでました。上の世代の人たちは例えば、いち早くラップを取り入れましたっていうだけで食えちゃったりしたじゃないですか?でも、もう綺麗に整備されて市民権を得てしまって第2、第3世代って出てくる中で、かなり凄いラップをやっててもそんなに認められないし、発明って言われない。60年代はまだ生まれたての赤ん坊みたいだったポップ・カルチャーが、自分の世代が着手した頃にはもう老人みたいになってて、だからといって凄く奇をてらって変なことをしてもしょうがないし。だから自分はむしろ真ん中と言うか、上世代が避けてきた道を歩いてみようかなって思って。ちょっとね~、話を上手くまとめられないんですが(笑)。ただ感じは分かってもらえると思うんですけど。
やけのはら いやいや、僕が感じた根本的な新しさみたいなのは、やっぱりそういう意思に基づいて出来てきたんだなってのは分かりました。
七尾 とにかく何とかしたかったんですよね。ロックとかは特にそうなんですけど手垢がつきすぎちゃってて。
やけのはら でも、馬場さんっていう道筋もありますよね?
七尾 ああ、全日本プロレス(笑)。あ~でも俺は出来なかった。
やけのはら でも結局今ってロックやってる人もヒップホップの人もテクノの人も本人が意図してもしなくても、ある種そういうお決まりはありますよね。
七尾 ポップのある部分は今、伝統芸能化してますよね。でも、俺、エジソンが好きだったんですよ。幼稚園の頃。あんまり好きじゃないですか?
やけのはら あ~、好きか嫌いかといわれたら嫌いじゃないですけど(笑)。あんまりエジソンが好きかは考えたことなかったですね。
七尾 図書館に子供偉人伝みたいな本があって、エジソンとヘレン・ケラーと一休さんが好きで。
やけのはら エジソンは他の偉人よりどこが好きだったんですか?
七尾 やっぱり発明量の豊富さ(笑)
やけのはら 量ですか(笑)
七尾 でも、照明とかレコード再生装置も発明してるし、DJのやけのはらさんにとってもゴッド・ファーザーなはずです(笑)。あと一休さんは毎日考えない日はないくらい好きですね。やっぱり何も持たない人間が何とかしようと思ったら一休さん的にならざるを得ないというか。それで橋の真ん中を通って3枚組を作ったというか。ってこれくらいの感じで説明できればこんなに話が長くならなかったんですけど(笑)。ちゃんと話したくて。勝手ながらやけさんには共感を感じてて。90年代からずっと同じ年の人の登場を待ってたんですよ。聴かせていただいたアルファベッツとか凄いクオリティ高くて、俺23歳とかあんなこと出来なかったですよ。
やけのはら いや~、超しょぼいですよ。今の15歳くらいでも出来ますよ。
七尾 いやいや、今聴くんじゃなくてリアルタイムでちゃんと聴きたかったです。
やけのはら いや~、すんません。ありがとうございます。いや~でもアレに入ってる曲作った頃、19歳くらいとかって…、鍵盤の黒鍵を押すの怖かったですもん(笑)。
七尾 いや、一緒一緒(笑)。俺27歳まで怖かったですもん(笑)。
やけのはら や~、僕、今でもギターのコード一個も知らないですもん。
七尾 それは俺は知ってます(笑)。プレイヤー気質は薄いですけど。歌手だから。やけさんもラップ上手じゃないですか?
やけのはら や~、自分ラップやってるって意識ないですけどね。普通のラップしてる人の1億分の一くらいしか。だから常にずっと、自分が音楽やってる人って意識ないですね。外からぼんやり音楽の隅っこに携わってる人みたいな感じというか。
七尾 いや、でも真剣度の高いことをやってると思いますけどね。ブログを前から見させていただいていて、いつもDJ聴きに行こうとかCD買おうと思ってたんですよ。この人どういう人なんだろって凄い気になってたんで。何らかの前情報があったわけではなくて、もう名前とかから気にかかって。やけのはらで『なれのはてな』でしょ。それって俺が2000年に見てた景色と一緒だから。
やけのはら 名前の由来話し、今まで恥ずかしくて「なんとなくつけたんです」って言ってたんですけど、さっきの話凄い分かるっていうか、一度今までのことは仕切り直しでまたやろうよっていうそういう意思で実はつけたんですよ。
七尾 いや、そうでしょ、そうでしょ。一緒なんだって。
やけのはら いや、恥ずかしい、汗かいてきた。その話、初めて人に言った。
七尾 そうなんだ。でも僕に、ばれてるばれてる。名前見てすぐ分かった。
やけのはら なんか今日は、今までの歩みは違うのは分かってたんですけど、何かちょっと俺から見て勝手な親近感というか匂うポイントを感じて、全然違うけど、近いようなことを感じたとこもあるんじゃないかなってピンと来てたんですよね。
七尾 2000年にメジャーをドロップして回りを見渡した時に胸を躍らせるカルチャーを見つけられなくて。焦土って言うか、完全にやけのはらに立ってる感覚でしたよ。なれのはてにいる感覚でした。その直後には911も起こるし、音楽業界だけじゃなくて世界中がやけのはらになっていく感覚でした。
続きはまた次回に!
■今月のおすすめ盤 イルリメ『メイド イン ジャパニーズ』、2MUCH CREW『BUBBLE YOU』
さて、今回の気になるCDはイルリメ『メイド イン ジャパニーズ』。前作から引き続きロカビリー~ロックン・ロール風味のポップでキャッチーな曲が多目ですが、突如テクノやエレ・ポップも入り、全体的にシンプルに分かりやすくはなりながらもストレンジな風味は失わないイルリメ印の6枚目のアルバムです。叙情的な最終曲“たれそがれ”は名曲ですね! 初めて聴いたとき新幹線に乗っていたのですが、流れる車窓の景色とオーバーラップし、あやうくティア・ドロップの危機でありました。
続けてもう1枚。2MUCH CREWの『BUBBLE YOU』! 零れ落ちた歪な何かだけをつぎはぎしたような、犬かきで世界新記録を狙ってるような、いとおしくもトホホで滅茶苦茶ロックな1枚です! 感動しました。
やけのはらプロフィール





























