第15回 Brian Wilson『Imagination』、Fatboy Slim『You've Come A Long Way, Baby』
2008/12/17 | タグ:Brian Wilson Fatboy Slim
■Fatboy Slim『You've Come A Long Way, Baby』
原田 ビッグ・ビートだ。この太った人が写ってるジャケットはいろんなところで見た。流行ってたよねぇ。これがファーストだったの?
澤田 97年にアルバムが1枚出てますよ。このアルバムがビッグ・ビート・ブームの頂点ですかね。“Rockafeller Skank”は衝撃だったし。聴いてました?
原田 これは聴いてた。流れには全然付いていけてなかったけど。
澤田 僕は“Rockafeller Skank”と“Gangster Tripping”はシングルも買いました。ノーマン・クックのキャリアで言うと、ビーツ・インターナショナルはこの頃には止まっていて、その後の幾つかの名義のうちの1つがファットボーイ・スリムという感じで。
原田 ビーツ・インターナショナルを続けていくつもりはあったの?
澤田 それはなかったと思います。ビーツは94年くらいで止まってたし。僕がファットボーイを最初に知ったのは、ペリー&キングスレイのジャン・ジャック・ペリーのリミックスなんです。“E.V.A.”っていうブレイクビーツ・クラシックを、ファットボーイがダブでリミックスしてた。そのときはファットボーイ・スリムがノーマンのユニットだとは知らなくて。そうこうしているうちに、どんどん人気者になっていった。
原田 今でもすごいけど、大人気だったよね。ロック好きもギャルもみんな聴いてるような印象があった。なんであそこまでヒットしたんだろう。軽薄さが良かったのかな。
澤田 ロッカフェラ効果ですよ。でも、ビッグ・ビート自体には当時から賛否両論がありましたよね。その軽薄さを責めるような言及もあったと思いますよ。
原田 ファットボーイにシリアスさを求めてもしょうがないじゃん。ムーヴメントになっちゃうと、アンチな人が誰かに責任負わせたくなる気分はわかるけど。これはバカバカしいからいいんでしょ。
澤田 ノーマンはキャリアがあるから、ビーツの人だと思っている人もいたし、ハウスマーティンズの人だと思ってる人もいたわけで。フリーク・パワーの人だと思ってる少数派もいたかもしれないし(笑)。それがムーヴメントに乗って変わってしまうことに物申す、みたいな感じなのかもしれないです。
原田 あ、その気持ちはちょっとわかる(笑)。うちの社長もノーマン・クックはハウスマーティンズの人ってことを譲らないもんね。で、これはそもそもどういう文脈で受けはじめたのかな。ビッグ・ビートよりも大きな枠で捉えたら、ハウスってことでいいの?
澤田 なんですかね。大枠でロックとテクノの融合ってことなのかも。この頃は、ファットボーイ、プロペラヘッズ、ベントレー・リズム・エースがビッグ・ビート御三家だった。ベントレーには、元ポッピーズ(ポップ・ウィル・イート・イットセルフ)のメンバーがいたりして。
原田 その中だと、ベントレー・リズム・エースが好きだった。他よりも音楽的な気がして。ベントレーは、ちょっと前までJ-WAVEのジングルで使われてたよ。そういう、ジングルでも使えるキャッチーさも魅力だった気がする。
澤田 確かに、一発で振り向かせるようなキャッチ力はビッグ・ビートにはありましたね。ベントレーはその中でもテクノっぽい印象があったけど。
原田 声ネタ程度にヴォーカルが入って、それがループとリバースで構成されているバカバカしいダンス・ミュージックって意味では、ナードコアと同じだよね。ナードコアってファットボーイと関係あるの?
澤田 まあ、音の構造は似てるかもしれませんけど……。でも、当時のビッグ・ビートにあったオシャレ感は、ナードコアには皆無でしょう。
原田 じゃあ、オシャレかどうかで別れる音楽ってことなんだ。で、ファットボーイは当時は本当にオシャレだったわけ?
澤田 オシャレといえばオシャレだったのでは。渋谷系のダンス・ミュージック化と言えるハッピーチャームとも重なっていた部分は大きいだろうし。ともあれ、ビッグビートがきっかけでダンス・ミュージックに目覚めた人は多そうですよね。ファットボーイは音が軽くて、そこが肝だったのかなと。
原田 オシャレ文脈で語れるのに下品だったのが良かったのかな。セックスの匂いがするとか。バウンシーなビートがセックス中の突き上げる腰使いを連想させるとか(笑)。なんか、ファットボーイがなんでここまで人気あるのかわかんなくて。
澤田 下品とはいえ、本当の下品じゃないですよ。バイレ・ファンキみたいな実践方向に行き過ぎると付いて来れない人が多いんじゃないですか。やっぱ、ロックの人がみんな聴くものの枠に入っていたのが、でかいんじゃないですかね。
原田 バランス感覚が優れている人ってことなのかな。わかんないけど、今の環境だとこういう曲は簡単に作れる気がするんだ。展開が多いわけでもなく、ビートもワンアイディアで、エディット感頼みの音楽という感じがする。あとはブレイクを入れるタイミングの問題くらいかなと。で、「これはセンスの音楽である」という過程で話を進めると、同じような方向で、後進でファットボーイに追いつく勢いがある人はいなかったのかね。機材はどんどん発達しているし、アイディアを曲に結びつけることは楽になっているような気がするんだけど。
澤田 後から出てきた人たちだと、フリースタイラーズなんかは近い。でも、知名度は雲泥の差ですからね。ノーマン・クックの場合は、やってることが一貫しているでしょう。ずっと同じことをやってる人ならではの強みを持ってるってのはありますよね。ファットボーイからこうなったわけじゃない。ビーツはもうちょいレゲエ色が強かったりするけど。……やっぱり、楽しい音楽だから人気なんですかね(笑)。
原田 そういう感じでしか紹介できないんだよね(笑)。
澤田 “Rockafeller Skank”はずば抜けてキャッチーだったから、それが受けたんですよね。あと、その前にケミカル・ブラザーズもいて、ファットボーイが出てきて、ダフト・パンクも“One More Time”とか出したことで、ダンス・ミュージックが一般的に人気を獲得する段階だったんですよ。
原田 ケミカルにしてもファットボーイにしてもダフト・パンクにしても一般層の最大の評価はこのあたりに出した作品っぽいね、確かに。
澤田 そこにアンダーワールドも加えて、まとめて聴いてた人は一杯いるんじゃないですかね。ビッグ・ビートっていうとベントレーとかプロペラヘッズなんかも一緒なんだろうけど、その中ではファットボーイは突出していて、アンダーワールドと並ぶ存在というか。ロック・リスナーにとってダンス・ミュージックを聴くようになった決定打がこの辺りでバンバン出てきたということですよ、きっと。
原田 リスナーにとって、状況が変わった年だったのか。タイミングが良かったというか。じゃあ、ノーマンが関わった仕事で一番好きなのを挙げて終わろうか。
澤田 僕は断然、ビーツ・インターナショナルのファーストです。クラブ・ミュージックとかサンプリング・ミュージックの楽しい部分が詰まってる。ディー・ライトのファーストと並べたい名盤ですよね。
原田 俺はハウスマーティンズのファースト。ビューティフル・サウスにモロに引き継がれていったけど、叙情っぽいくてわかりやすいメロディの音楽ってロックの人は好きなんだよね。
澤田 なんでそんなにロックが好きなんですか? その一言で2008年を締めくくりましょうよ。
原田 なんでって言われても困るけど……。やっぱ秩序があるからかなぁ。
・ファットボーイ・スリム関連作品を紹介
OP編澤田(右) 78年東京生まれ。安室ちゃんのライヴに初めて行ったら、隣が完全ヲタ目線の男(=俺と一緒)だったのがちょっと残念でした。
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