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第14回 Portishead『PNYC Roseland New York』、
砂原良徳『Take Off And Landing』

2008/03/28 | タグ:

 こちらのコーナーでは、OOPS!編集部員が、〈10年前にリリースされたCD〉をネタに、思い出話をとりとめもなく話していきます。当時流行ったジャンルや時代を飾ったアーティスト、その他もろもろのキーワードを放り込み、雑談ライクにこの10年の音楽シーンをぼんやりと総括&再検証いたします。

原田 いつの間にか桜が咲いてるね。卒業シーズンですよ。この時期は地方から上京した若者が、さみしさからつい宗教に入ったり、無駄な異性交遊によって悲しい思いをしちゃったりするんだろうね。楽しい季節のはずなのに。

澤田 そんな切ない出来事を経験している人なんてほんの一握りですよ。ほとんどの人は新しい出来事にワクワクしてるはずです。それより、卒業ソングで好きなものってないんですか? 僕はユーミンの“冬の終り”なんですけど。

原田 俺は南野陽子の“吐息でネット”だな。卒業がテーマじゃないんだけど、高校を卒業した頃を大人になったナンノが思い出しているって設定の曲で。「あなただけに染まりたい」とか「少しずつ大人になる」とか、いやらしい妄想を誘うような歌詞もいいんだ。

澤田 なんか、昭和の匂いがしてくる話ですね。でも、南野陽子も今や〈風とロック〉の箭内道彦と付き合っているわけですから、なにがあるかわかんないもんですよ。

原田 あの話はビックリしたなぁ。風とロックの卒業イベントをやったらきっとナンノが出てくるよね。サンボマスターが“吐息でネット”をカヴァーしてる時に、後ろのカーテンが開いて本人登場、みたいな演出で。

澤田 そんなのあるわけないじゃないですか。

■Portishead『PNYC Roseland New York』


Portishead“glory box”『PNYC Roseland New York』のライヴ映像

原田 これは好きだったなぁ。大学時代の話なんだけど、実家が酒屋の友達がいて、そいつの家には仕送りとしてビールとタバコがいっつも送られてくるのよ。俺はその家でよくビール飲んでて、その時になんか聴こうかと思ってCDかけたらこれだった。名前は知ってたんだけど、はじめて聴いたらビックリしたことを憶えてる。ライヴ盤なのに完成度が高いし、音楽的にはブレイクビーツなんだけど、踊れるわけでもなくて。スクラッチが入っているところが未来の音楽だと思った。

澤田 いつの人間なんですか(笑)。でも、98年くらいは生の編成にDJが入るとかっこいいというイメージはありましたよね。今はダサいとすら思われかねないですけど。

原田 そうね。そういう時代感はあった。あと、ポーティスヘッドと関係ないんだけど、俺高校生のときに、ESPから出しているパティ・ウォーターズの『College Tour』っていうCDを買って。それはものすごい暗くて最後まで聴けないCDとしてトラウマ的に俺の中に残っていたんだ。ポーティスヘッドのヴォーカルは、その時の衝撃に近いような暗さがあって、ハッとしたりして。パティ・ウォーターズのトラウマを、ブレイクビーツが更新してくれた感じ(笑)。

Portishead“Roads”『PNYC Roseland New York』のライヴ映像

澤田 これを聴くまで、それ以前のアルバムは聴いてなかったんですか?

原田 うん。このライヴ盤から入らないと、ここまで頭に残らなかったような気もするけれど。オリジナルよりもライヴ盤のほうが緊張感がバリバリにあったしさ。

澤田 ポーティスヘッドはトリップホップの文脈で語られてましたよね。トリッキーと並んで商業的に成功していて、さらにロック方面で人気を得たグループという感じで。このライヴ盤は、世間的にも名ライヴ盤という感じで。元々サンプルでやっていた部分を弦楽を使って再現して成功したんですよね。“Glory Box”はリーバイスのCMで使われていた。

原田 試みとしても、これだけの規模のことをやれたというのはバンドにとって大きかったんじゃないかな。

Portishead“Sour Times”『PNYC Roseland New York』のライヴ映像

澤田 こういう、サンプリングを生で再現するみたいな逆転的なやりかたを最初のほうにやったものなのかもしれないですね。僕は、そんなにこなかったんですよね。トリッキーもあんまりで。そういったものの中ではマッシヴ・アタックが一番でしたね。マッシヴは、ファーストの頃はクラブ・ミュージックの新しいものという感じで。『Mezzanine』がロックっぽくなっていって。それで一気に知名度を上げた感じがしましたね。トリップホップは、ロック側からの支持のほうが強かったように思います。

原田 マッシヴとポーティスヘッドを比べると、日本での盛り上がりも全然違ったよね。

澤田 なんでその辺の暗いものが人気があったんですかね。レディオヘッドと通じるんでしょうか。レディオヘッドトム・ヨークのカリスマ性を求めているんだろうけど、トリップホップの場合はそうでもなさそうだし。

Portishead“Mysterons”『PNYC Roseland New York』のライヴ映像

原田 トリップホップを聴いていた人たちのうち、カリスマ性を求めている人はレディオヘッドに行って、暗くてもハッピーなものを求めている人はアンダーワールドに行ったとか? 当然両方聴いている人も多そうだけど。とにかくこの盤は、アイディアを実際に現実まで運び出すだけの労力を乗り越えるのにものすごい苦労してそうなところも伝わるよね。失敗したら終わりだって緊張感や気迫が音にこもってる。

澤田 日本で同じようなことをやった人はいなかったんですか?

原田 わかんないけど、ここまで大規模なことをやった人はいなかったんじゃない? 同じ年には、フレーミング・リップスが、カセットデッキを再生して曲を作るライヴをやったり、CD4枚を同時再生しないと完成しない曲を作ったりしてた。実験的で、アートの匂いがするものが当時は結構あったかもしれないけれど、そういうものと比べてもこのアルバムの完成度は抜群に高かった。これを出した後バンドは10年も結局沈黙してしまった事実が、いかに彼らにとってこの試みが大きかったのかということの証明なんじゃないかな。

Portisheadの新作『Third』収録曲“Machine Gun”プロモ・クリップ

澤田 トリッキーもマッシヴも、みんなこのころで停滞した感じがしますね。注目度もそれにあわせるように低くなっていったし。マッシヴなんかは売れてたわけで、アンダーワールドみたいにもっと大きくなる可能性もあったと思うのに。ブリストルの黄金時代が終わったということですかね。ロニ・サイズも『New Forms』の後1枚出して止まったし。

原田 ブリストルが一番湿り輝いていた時期ということでしょ。とにかく、この盤は今でも引っかかる人はいるはずだから、若い子が聴いたらいいのにとは思うよ。今年出る新作には期待もあるけれど、そこまですごいものが出るとは正直みんな思ってないだろうし。

澤田 でも、フェスに来たら見に行くんですよね?

原田 それは見る。多分、見ながら泣くと思う(笑)。

ポーティスヘッドの作品を紹介
4月30日にリリースされる約10年ぶりのアルバム『Third』
『PNYC Roseland New York』の模様を収めたライヴDVD
97年にリリースされたセカンド・アルバム『Portishead』
94年にリリースされたデビュー・アルバム『Portishead』

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