第13回 キリンジ『ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック』、Tortoise『TNT』
こちらのコーナーでは、OOPS!編集部員が、〈10年前にリリースされたCD〉をネタに、思い出話をとりとめもなく話していきます。当時流行ったジャンルや時代を飾ったアーティスト、その他もろもろのキーワードを放り込み、雑談ライクにこの10年の音楽シーンをぼんやりと総括&再検証いたします。
原田 まず、年始1発目ということで、10年前の98年にお互いどんな音楽を聴いていたかざっくり話してみよう。
澤田 僕は、大学2年生で19歳ですね。ますますクラブものに寄っていきました。この年が人生で一番レコードを買ってた年だと思うんですけど、一番記憶に残ってない(笑)。ビデオ屋でひたすらバイトをして、レコードを買う毎日でした。
原田 俺は大学3年生か。CDが売れていたおかげで、日本の音楽が活発だったよね。ロッキング・オン・ジャパンの表紙を飾るような人たちが売れていた全盛の年で。サニーデイ・サービスとか、そういうものをよく聴いていた。あとは80年代の音楽が自分にとっては新しかった。地方の大学生だから車を持ってて、それで友達を集めて隣の市までCD買い付けツアーみたいなことをよくやってたなぁ。音楽以外の要素が楽しかった記憶がある。
澤田 地方の人は車があるからいいですよね。僕は駅から家まで自転車を漕いで、レコードをひたすら運んでたんです。それが98年の僕を象徴する出来事ですね。
■キリンジ『ペイパー・ドライヴァーズ・ミュージック』
澤田 最初はキリンジのファーストですね。これは、出てすぐに買いました。インディーズで『キリンジ』というキリン柄のジャケットのミニ・アルバムが出たときに、大学のサークルの人が「新人だけど、久々にいい」と言って話題になってたんです。
原田 俺は、名前は知ってたし、ちらっと聴いたことはあったけど、カタカナ4文字の名前が苦手でちゃんと聴いてなかった。当時はAORもシティポップみたいなものも興味がなかったし、キリンジに関しては「知ってる」という以上の判断はしてなかった。でも、これが出た年くらいに山下達郎のファースト・アルバムをアナログで600円くらいで買う機会があって。それを聴いたら驚いたんだよね。それから2年後くらいにたまたまこのアルバムに入っている“双子座グラフィティ”をちゃんと聴いてみたら、「もしかしたらこの人たちは凄いことをやっているのかも」と思うようになった。キリンジの良さを理解できたのは、達郎によってメロウで成熟した音楽を聴くことに慣れたからだと思っている。
澤田 毎回言ってますけど、僕は日本のものはフリッパーズ・ギターと電気グルーヴくらいしか聴いてなかったんです。でも、キリンジは珍しくリアルタイムで好きな日本人でした。AORもシティポップも山下達郎も聴いてなかったんですけど。単純にいい曲だと思いましたね。
原田 キリンジのこのアルバムが出たことによって、シティポップに対する興味が沸いた人って多かったんじゃない? シュガー・ベイブをキリンジ以降に聴いた人も多そうだし。
澤田 確かに、キリンジ → シュガー・ベイブという人は多いのかも。関係ないですけど、シュガー・ベイブの再発CDには「え? そんなの、25年前にシュガー・ベイブがやってるよ」という衝撃の帯文(CDの帯に書いてある文章)が付いてましたよね(笑)。
原田 あの帯文は、CDが誕生してから消滅するまでに書かれる数多の帯文のなかで、最もひどいと思ってる(笑)。買ってから、まず帯をクシャクシャにして捨てる人がほとんどなんだって(嘘です)。
澤田 World Famousの二見裕志さんが、ちょうどその頃PANAMレーベルの音源を再発している時代で。はっぴいえんどとか、キャラメル・ママ、山下達郎にいたる流れは評価されていたと思うんです。
原田 キリンジは、その再評価の動きに乗っていた面もあるけれど、一役買っていた面もあったということだよね。もっとオーバーグラウンドな場面で、シティポップ的なものが売れていたということはなかったのかな?
澤田 当時はそういう人はいなかったんじゃないですかね。ロックが評価されやすい時代だったと思いますし。キリンジは、マニアックに音楽を聴いていない人にも引っかかる良さがあるんですよね。しかも、これだけいい曲ばっかりのアルバムってやっぱりないですよ。最初から完成されているって言われてたけど、そのとおりだと思います。
原田 じゃあ、キリンジを聴いていた人たちはメインでなにを聴いてたんだろう。コーネリアスみたいな、サブカルとアイドルの中間みたいなミュージシャンかな? でも、キリンジはアイドル的なそぶりから意識的に離れていた。そこはサブカル・アイドルとは違ったわけじゃない。
澤田 中心じゃなかったとしても、そういったアイドル的なミュージシャンとリスナーは被っていたんじゃないですかね。ルックス的なことを言えば、キリンジは常にアートワーク周りで損しているように思うんですよね。アルバム・タイトルやジャケットの、ちょっとハズしたセンスが理解されずに、本当にただハズして終わっているような。
原田 それはあるよね。一回見ても手に取られずに終わるタイプの地味さだもんね。最近はずいぶん垢抜けた感じがするけど(笑)。とにかく、このアルバムは不器用なところが見えようがなんだろうが、愛着という言葉に近い魅力がある。評価されたのは日本の音楽界にとって本当にいいことだと思う。キリンジで1枚選べって言われたらこれだもんね。
澤田 そうですね。僕もキリンジで一番聴いたアルバムだし。『3』も人気が高いですけど、あっちはシングルが沢山入っているアルバムという感じがするし。もっと若い世代が、今後このアルバムをどう評価していくのかということも気になります。ファーストがキリンジの入り口じゃない人ってこれから沢山出てくるはずだから。でもこれ、廃盤らしくてAmazonなんかじゃ買えないんですよね……。





























